ベトナムのバイク考:2023/09/05〜2023/09/11
ボクは9月初旬、グループツアーで6日間のベトナム旅行をした。そして無数のバイクを見た。ベトナムの人口は1億人弱、バイクは何と6000万台近くある。ベトナムはタイに次ぐ、バイク普及率世界2位の国である。
ボクはツアーの間、バスの中からバイクを眺めていろんな事をぼんやりと考え、そして何枚かの写真を撮った。

ボクはバイクを見て思った。このバイクこそベトナムそのものではないか。そしてバイクはそこに乗っている人、そこに乗せているモノ、全てが見える。つまり人々の生活を垣間見る事ができる、と。

旅から帰って写真を眺め、その時何を思って感じたか思い出してみた。
でもバスの車窓からバイクを見て思ったり考えたりした事は、結局はとりとめのない「ぼんやりとした、支離滅裂なもの」だった、というのがわかった。

しかし、ぼんやり・支離滅裂ではあるが、せっかく写真もある事だしこれを少し整理して、そのぼんやり・支離滅裂を何とか無理矢理まとめてみた。暴言はない、と思う。

通勤のバイク(1)
朝の8時頃のサイゴン(ホーチミン)の風景だ。とにかくバイクの波である。
乗っているのは男、女、皆である。でもおっさん、おばさんの比率は低く、爺さん、婆さんは皆無だ。
ナゼか?ベトナムは若者の国なのだ。ベトナムの平均年令は32才(!)人口の60%以上が30才以下なのだ。

これに対して日本は50才以上が50%、65才以上が30%、ジジ・ババ国である。街を歩けばすぐわかる。
ベトナムは65才以上は8%しかいない。ベトナムは若い国なのだ。

通勤のバイク(2)
じゃ、何でバイクが多いのか?理由はいろいろ考えられる。まず公共交通機関が貧弱、というよりほとんどない。バスは見ない、鉄道も非常に限られている。100年前の植民地時代に敷いたものが僅かにあるだけ。

もう一つは国民の所得がギリギリバイクを買えるレベルである事だ。国民の年収は30万円〜、ごく少数が80万円〜程度。バイクは新車で25万円、中古は10万円くらい。

車は政府が中古車を輸入させないからとかトンチンカンな事を言う輩がいるが、割り算ができないだけ。

モノを運ぶバイク(1)
貧弱な交通・輸送機関の中ではあるが、国民は生活をしなければならない。だからバイクはあらゆる対象の輸送手段としても使われる。都会でも、田舎でもモノを運ぶバイクを頻繁に見掛ける。

バイクは人の移動を支える乗り物だけではなく、モノを運ぶ手段としても重要なのだ。ベトナムではバイクが物流を支えている。

都会のど真ん中では人のみを乗せたバイクが多いが、ちょっと校外に出るとモノを運ぶバイクが断然目立つ。

モノを運ぶバイク(2)
通勤に使われるバイクとモノを運ぶバイクでは種類が違う。通勤などに使われるバイクは、女性が足を揃えて乗れるスクーターが多い。

これに対してモノを運ぶバイクは、サドルに跨がるいわゆるバイクだ。そしてとにかく耐久性を重視したバイク、ホンダのスーパカブがその王座にある。

圧倒的信頼性と耐久性、燃費の良さ、パワフルで静かなエンジン、運転バランスとデザインの良さ、これに勝るバイクは世界中どこを探しても存在しない。

モノを運ぶバイク(3)
実際に見ていると何でもバイクで運んでいる。スーパーカブの排気量は90〜125CC、最近は125CCが主流で、とてつもなくパワフルである。

だから相当な重量物も運べる。今回の旅行中にガイドから水牛を運んでいるバイクの写真を見せてもらった。これはさすがベトナムでも「おっ、やるじゃん!」となったらしい。

モノを運ぶにはハンドルも利用するので、バックミラーを外してあるバイクが目立つ。

モノを運ぶバイク(4)
バイクを使って路上で物売りをやる人も多い。
サイゴンのど真ん中で、アイスクリームを売っていたオジサン。この人も
生活とバイクが、直結しているわけだ。

モノを運ぶバイクを見て、日本人の中には、なんて
危険なことを、とか規制はないの、とかいう輩がいる。
荷台からモノが落ちて
困るのは、自分だから限度はキチンと見極めている、と思う。それがバイク社会というものだ。

生活のため、生きるために使っているバイク、
代替手段もないわけだから、規制は有名無実になる。

お母さんとバイク(1)
ハノイ、サイゴンなどの街中では、実に多くの子どもを乗せた「バイクお母さん」を見た。

子ども乗せたお母さん達は、きちっとヘルメットを被り、しっかりとハンドルを握り、キリッと前を見て子どもを乗せて運転している。実に頼りになる姿ではないか。これぞお母さん、である。

最近の日本では、子どもを育てられない「未熟ママ」が増えてるらしいが、ベトナムの「バイクお母さん」には、そんな感じは微塵もなかったね。

お母さんとバイク(2)
どこかで買ったか、もらったか、風船を持った女の子を後ろに乗せて、前には3才前くらいの男の子を乗せたお母さん。このお母さんは珍しくスクーターではなく、バイクだ。

バイクのお母さん達は逞しく見える。車に子どもを乗せて運転していても逞しさは感じないが、バイクだとそういう感じになる。バイクとは不思議な乗り物だ。
何だか「頑張れ!お母さん!」と言いたくなる。

ちなみにベトナムでは15年くらい前まで任意だったヘルメットが今は義務化されている。

みんなでバイク(1)
お父さんが運転して、家族全員を乗せているバイク。
後ろの女の子はお父さんとお母さんに挟まれて窮屈そう。でもこれがスキンシップというものだ。

日本の同年代の子どもが、お父さんの背中にへばりつくスキンシップがあるだろうか?ないと思う。
成長して、自分がお父さんより大きくなったとしても、お父さんの背中は絶対に忘れないはずだ。

ボクが4才の頃、父におぶってもらって親戚の家から帰った時を覚えているように。

みんなでバイク(2)
お父さんとお母さんのヘルメットは同じデザイン。
女の子が持っているのは水筒で、フタが空いている。水か何かを飲みながら、気分良さそうな顔をしている、

前に乗せられている男の子は大分大きい子のようで、お父さんの視界を遮らないように、首を前に出している。

ベトナムは規則では3人乗りまでOK、でも4人乗りは普通に見るし、今回は5人乗りも見た。
ツアーのガイドによると7人乗りまでは見たことがあると言っていた。

完全武装とバイク(1)
ベトナムでも色白がべっぴんさんの条件だ。南方だから日焼け、赤銅色は当たり前、とか思ったら大間違い。

従ってベトナム女性はバイクに乗るときは、かなり大がかりな日焼け対策をやる。
上下つなぎのブルカのようなものを着て、手袋をしてそしてマスク。更に大きなサングラスを掛ける人もいる。

腰巻きだけの人もいるが、これはスカートをはいてバイクに乗る時の共通コスチューム。

完全武装とバイク(2)
これら女性の姿を見ながら、ツアーガイドのフイさん、「だから女は事故が多いんですよね〜」。

この衣装を「忍者姿」とか言う人もいるが、ボクは「テルテル坊主」と言った方が愛嬌があっていいと思う。
小柄なベトナム女性が、125CCのスクーターにテルテル坊主姿でチョコンと乗っている姿は、何となくユーモラスさを感じる。

平均的な通勤時間は40分以上、南方の陽の下で長時間バイクに乗れば、ベトナム美人も台無しになるからね。

スマホとバイク
完全武装の女性ライダー、再度登場?
イエ、見てたらこの女性、おもむろにポケットからスマホを取り出し、操作開始。

ボクは何人もの人が、バイク運転しながらスマホいじっているのを見たね。前後左右の間隔を確認して、定速で走ればできるんだろうが、やっぱりこれだけは、、、と思ったね。

ボクは米国で本を読みながら高速道路で車を運転しているオバサンを見たことがある。ビックリしたね、あの時も。

2人の関係とバイク
男女2人乗りの姿を見て、品がないと言われてもその関係を想像するのも面白い。バイクタクシーも見掛けたが、これはライダーが制服を着ているのでわかる。

後ろの女の子が横座りしてライダーの背中にしがみついているのは恋人同士、または夫婦かな、イヤ親子かも。
都会では横座りを時々見掛けるが、短距離移動だろう。

日曜日は若いカップルのバイクをたくさん見掛けた。バイクでデート、これも良いではないか、、、。

日本とバイク
ベトナム6000万台のバイクの95%は日本メーカー、その80%はホンダである。
ホンダ、というのはベトナムではバイクの代名詞である。
「どこのホンダ買った?」
「ヤマハのホンダを買ったよ。」

ホンダのバイク工場はハノイ近辺に3つあって、確か年間300万台を生産している。ベトナム中のホンダは、ホンダ製である。
世界一の技術者が60年間技術を積み上げたホンダ、いやホンダのホンダ、スゴいのである。

バイクで助けたかった人達
米国はベトナム戦争当時、日本に対してバイクの輸出制限を要求していた。軍事転用、技術の第三国への流出防止が主な理由だった。エーッ!バイクが? そう、これは本当だ。

バイクのエンジンは極めて高度な技術で成り立っている。かつて某国がホンダのエンジンを徹底的に分解・研究しても同じものはどうしても作れなかった。

その頃既にバイク普及の兆しがあったベトナムはその芽を摘まれ、戦後は経済低迷、当時若者だった今の老人達はバイクとは縁のない世代となった、、、ボクは、こう考える。

ベトナムでのバイク・スクーターは趣味や遊びで乗るのではなく、生活必需品である。ベトナムも豊になればいずれ車社会になるとか言う人がいるが、ボクはそういう社会にならないのではないか思う。

道路などのインフラ、建物、全てがバイクをベースに作られており、またバイクは省エネ・省資源、実に効率のいい乗り物であるから、これを捨てるというのは間違っている。

100円のペットボトル買いに行くのに400万円の車で1km先のコンビニに行く、、、ボクは疑問に感じる。

ベトナム人の年収が今の5倍程度、ベトナムの今の成長率では30年〜50年後になるが、なったとしてもその頃に世界は「車は脇役の次世代交通・物流システム」が完成している可能性が高いのではないか。

車はもちろんこの先もずっと残るだろうが、ベトナムは2輪社会⇒4輪社会⇒次世代交通システム社会、ではなく2輪社会⇒次世代交通システム社会になるような気がする。

EV車の排ガスはクリーンだが、電気をクリーンに、我々が必要とする安価に作れるメドは、今のところ全くない。
EV車の値段は今のガソリン車の2倍、つまり省資源ではない。こういう車がベトナム6000万台のバイクの代わりができるとは到底思えない。

ベトナムでたった6日間であったが、バイク・スクーターの走る姿を見て、そんな事をぼんやりと感じた次第である。