事故の奥(2022−05−31)
北海道知床半島西沖で遊覧船が沈没してから1ヶ月以上が経過、乗員乗客の遺体は14名が見つかっているが残りの12名はまだ不明である。船体の引き上げも行われ、現在事故原因の調査中だ。

ボクは漁師町の生まれで殆どは耳学問ではあるが、船と海については割と詳しい。テレビ・ネットなどの情報から、ボクなりに沈没の原因について大いに推測を加え、整理をしてみた。

■ 観光は船から岬(陸側)を見るのが目的であり、沈没に至る異常が発生した時は船は”カシュニの滝”付近にいたという船長からの連絡がある。
カシュニの滝の写真を見ると沖は明らかに岩礁だらけの海域である。船を岬の崖に近付けたが荒天で波が荒く、岩礁に船底が引っかかり破損、そこから浸水して沈没したのではないか。

波というのは崖と海の境目が一番激しいので、余計に操船が難しい。結局、岩礁に船体がぶつけられたような状態になり、船底又は舷側が破損、そこから浸水した。

■ 異常(浸水)が発生した時、船長からは、「バッテリーが使えない。」、という連絡があったが、エンジンを停止して観光させていた可能性がある。

バッテリーが使えないというのはエンジンの再始動ができない、という意味にもとれる。
エンジンを停止して滝の観光をしていたとなると、操船ができない遊弋状態であったという事になる。

■ 観光船はごく最近、座礁事故を起こしている。
しかしこれによる船体ダメージの修理は十分に行われなかったのではないかという同業者の証言がある。

上記の岩礁への不意の衝突があった場合、通常であれば破損しないが、修理が不完全だったため容易に破口を作ってしまいここから浸水、そして沈没に至ったという事も考えられる。

引き上げた観光船は船内に遺体がなかったそうであるが、これは異常が発生してから沈没までに時間的な余裕(約45分)があったからである。当時の水温は3〜4℃で数分〜20分程度で体温低下、意識がなくなる。以後凍死、または溺死に至るので救命胴衣の意味は今回は殆どない
(一部学者は1時間以上生存するとか言っているが、例外的なケースを平均値のように使っている。)

12人の遺体が収容されていないが既に海没しているか、見つかっても露出部分から魚に食いちぎられて”カカシ”状態になっている可能性が高い。

海上保安庁の現場捜索開始は体制の不備などにより、救助要請連絡を受けて3時間後だった。

異常が起きた観光船からの無線通信が一時期話題にになっていた。観光船の通信は衛星電話、船長の携帯電話、アマチュア無線の3つがあった。これを使って観光船と会社は業務連絡を行う事になっていた。

■ 衛星電話: 設備が故障して、当時は船に搭載されていなかった
■ 携帯電話: 観光船の行動範囲では殆どのエリアがサービス圏外で使えなかった
■ アマチュア無線: 観光船の本社のアンテナは破損しており、交信ができる状態ではなかった。

直近に行われた国土交通省北海道道運輸局の監査では通信手段の不備が指摘されており、アマチュア無線を使うようにという指導があったそうだ。

このような業務通信にアマチュア無線を使うのは明らかな電波法違反であり、国交省の役人の指示は電波法で定める”目的外通信”、つまり電波法違反行為を奨励していた事になる。
これは事故当初盛んに報道されていたが、ナゼか急に言わなくなった

現在アマチュア無線は様々な業種で業務通信に多用され、各地方自治体などは災害時の通信用に大量の無線機を買い込んでいる。
これらの無線機を使うには免許が必要であるが、これ使う職員が免許を持っているかどうか疑わしい

観光船事故での船長からの連絡は結局は会社への連絡ではなく、同業者へアマチュア無線を使って行われたようだ。

いずれにせよ、船長から連絡があってその約10分後には同業者が118番(海の110番)を行っている。最後に船長と交信したのは14:00頃でこれは118番をしてから約45分後である。
つまり観光船は異常(浸水)が出てから45分間は海上に浮いていた事になる。

当初、遭難通報の通信連絡に問題があったような報道があったが、やりとりを整理すると方法は何であれ、通信連絡はとれていたようである。

いろいろな話の中で見逃せないのが船長の操船技量についてである。同業者達は観光船の船長について”素人同然”という感想を述べている。

大事故にはハインリッヒの法則というのがある。大事故の前には25の軽微な事故があり、その裏には300の様々な事象、要因がある、というものだ。であるから300の事象・要因に対して適切な対応をこまめにとっていれば大事故は防げる、という事になる。

更に大事故は1つの要因では起きず、通常3つ程度の大きな要因が同時に重なった時に起きると言われている。今回の事故をボクなりにこの原則を当てはめてみると次の3つになる。

1.気象状況: 同じ港の他の漁船が出港を見合わせたほどの悪天候であった。
2.観光船は最近座礁事故を起しており、その修理が不完全であった。(今のところお話レベル)
3.船長の操船技量は誰の目にも未熟であった。(お話レベルではあるが多分事実)


マスコミは一時期、気象状況が厳しいにもかかわらず、出港判断は誰がやったのか、というところに焦点を当てて報道していたが、これは事故要因とは別の話になる。

この事故では救助の遅れも問題になっている。海上保安庁のへりが最初に現場海域に到着したのは通報から3時間以上経ってからである。

更にその3時間後、早期捜索に限界を悟った海上保安庁は航空自衛隊(千歳基地)に災害派遣要請を出し、40分後にはU−125A救難捜索機2機が現場海域に到着している。

もし保安庁が事故の連絡を受けて直ちに航空自衛隊に連絡していれば観光船の海没直前、または直後の海域に行くことができ、搭載のライフボートなどの投下が行えたかも知れない。

更に通報から日没まで5時間近くあったので海上自衛隊、陸上自衛隊のヘリなども現場海域に急行、捜索救助活動ができたはずである。海上保安庁は捜索・救難に関して非常に強い、意固地というか縄張り意識を感じる。

事故に関するテレビとかネットの情報は観光船会社の社長の個人的な事など、ゴシップが多く、ボクはこういう事にはあまり興味はない。

今後関係省庁はどこまで事故に関する事実を公開してくれるのか、ボクは非常に興味がある。