日本は”RUST COUNTRY”か:2024−09ー15
アメリカと日本はかつて長年にわたり、貿易摩擦で争ってきた。その結果は0勝10敗、日本の完敗であった。
現在、日本には摩擦を生むような輸出品はなく、貿易摩擦はなくなった。
別な見方をすれば日本はかつてのように、モノを活発に生み出す力を失ってしまった国である。

日米貿易摩擦は1960年代の繊維から始まり、その後、家電、カラーテレビ、自動車、半導体へ移っていった。繊維や家電産業は日本国内からほぼ消滅し、最後の摩擦品目である半導体産業は今では設計分野での存在感を失い、製造能力は激減した。

自動車とその関連は、かつて日本の工業製品輸出額の50%近くを占めていたが、今ではその5分の1程度である。過去に最も大きな摩擦が生じたのは自動車産業であった。

1970年代後半から、日本の自動車メーカーは高品質で安価な車をアメリカに輸出し、売れに売れた。

これに対し、アメリカはまず日本車の輸出台数を制限し、次に政治的手段で円高を誘導して日本車の価格競争力を削いだ。
更にアメリカ政府は、輸出の代わりにアメリカ国内での生産要求という究極の追い打ちをかけてきた。

アメリカ政府は、「日本人がアメリカに工場を建て、アメリカ人を雇用して車を作るなんて不可能」、と考えていたようである。日本はこれに応じ、アメリカ国内に工場を建設し、主要部品を日本から輸入し、現地で自動車の生産を開始した。

するとアメリカ政府は、「部品は日本からではなく、アメリカ国内で調達せよ」、と要求してきた。
最終的には、アメリカでの調達率を90%にせよという、途方もない条件を突きつけてきた。

しかし、日本はこれもやってのけた。アメリカの商慣行は何もかも日本とは大きく異なっていたが、これにも対応、時には巧妙に回避しながら。

ボクはこの激変の中を10年間日本で間接的に、そして15年間をアメリカで直接的に携わってきた。

アメリカに赴任した時は既に現地法人は1万3千人のアメリカ人社員を抱え、関連部品メーカーも同数くらいの規模を雇用していたと思う。

外国で日本と同じ品質とコストで自動車を生産し、販売するということがどんなに困難であるか、ボクレベルの経験からではあるが、理解しているつもりである。これらの事を本に書けば、1冊でまとまりきらないかも知れない。

ボクは最近になって、自分のこれまでの人生を振り返って考える事が多くなった。
その中の一番大きな部分は家族の次に、やはり仕事である。

仕事は家族が生活するための、経済的な支えを得るためであった、というのは言うまでもない。
しかしそれとは別にボクの仕事は一体何に貢献できたのか、そして経済的な面とは別に、”何を得たのか、何を失ったか”、と言うことである。

ボクは、こういう事をかなり冷静に振り返る事のできる歳になった、と思ったのである。
つまり”人生の収支決算”とでも言おうか。

ボクのやってきた仕事をある切り口から見た場合、大袈裟に言うと、"日本製造業の海外移転"の推進、と言えると思う。
そしてその先を辿っていくと、”日本製造業の空洞化”という札がぶら下がっている。
この2つは、多くの人も言っているように一組で見るべきなのだ。

製造業の海外移転は様々な巨大な世の中の流れの中で、選択の余地のない”戦略”ではあった。

日本はここ30年でモノづくり工場が減少した。
"日本の製造業の海外移転"の主なバックグランドは、貿易摩擦、円高、グローバル化、コスト競争、そしてアジア新興国の台頭である。
空洞化は小学生でもわかるカラクリで、事前に予測できた、或いは予測できていた事だったと思うのだが、その対応はその後今に至るまで、できていないという驚くべき状況である。

これは国内経済に大きな影響を及ぼした。
かつての製造業に依存していた地方経済は衰退、地域社会にも負の影響を与えた。さらに、日本の技術力や競争力も低下し、製造業大国としての地位が揺らいだ。

日本の産業全体はどうなったのか。
製造業の空洞化に伴い、国内産業はサービス業やIT産業、金融業などにシフトしていった。

つまり製造業を中心とした”ものづくり”から、サービスや情報技術に依存する経済構造に変わっていったのである。
しかし、これらの産業は製造業ほどの雇用吸収力はなく、賃金水準もごく一部を除いて低く、結果的に中間層の縮小、所得格差の拡大につながった。

今の世の中では毎日のように貧困、格差という言葉が叫ばれており、これを耳にしない日はない。
日本の今の状況の起点は、”日本の製造業の海外移転”にあり、次の”移転後対応”の失敗によるとボクは思っている。

つまり、「さあ出て行け、出て行け」、とやらせておきながら、出て行った後の事を日本政府も企業経営者も考えていなかった、または考えていてもやれなかった、その結果が”失われた30年”とか言って、黄昏れているだけじゃないか、、、ボクはこのように思っている。

日本はモノづくりではなく、IT産業とかサービス産業を発展させれば国民は豊になれる、とかいろんな人が言っているが「バカも休み休み言え!」と言いたくなる。
これを言っているのは、IT業界とサービス業界の連中とそのシンパだけと、いうのを忘れてはならない。

超極端に言うとITもサービス業も人間で言えば脳・と神経に相当し、製造業は筋肉・骨格になる。人間の筋肉や骨が身体を支え動作を可能にするように、製造業は経済の実体を動かす力となる。

ITが発達しても、それ自体では何も生まれてこない。車はおろか、机の上に転がっている鉛筆一本さえできてこない。
立派な脳・神経があっても、筋肉・骨格がなければ何の意味もない事くらい、中学生でもわかるというものだ。

いずれにしても製造業の空洞化は、国民を貧乏にした。これを冷静に捉えている政治家、経済学者などがあまり表面に出てこないのはナゼか?

アニメは日本の特産品みたいな言い方をするが、アニメでどれだけの人が収入を得ているのか。
アニメを一生懸命に画いているアニメーターたちの給料は信じられないくらい安い。

アニメは今や日本に数少ない、世界に誇る”産業”の一つとか言われるが、この業界はほんの一部の人を除き、その他大勢は低収入にあえぐ、所得格差の大きな典型的な産業のひとつである。製造業のような分厚い中間層はいない
これを知っている人は少ない。

製造業は多くの人を雇用し、それなりの収入を約束していた。
しかし製造業が空洞化した今、結局は多くの人は安い給料の仕事に就くしかなく、一部の人はより多くの収入を得る事になった。つまり格差社会になった。

このような状況の中でも、日本人の約80%が自分を”中間層”であると思っているという統計データがある。
例えば、世帯年収500万円(約3.5万ドル)をもって「中間層」と考える日本人がいるが、G7の国々で同様の主張をしたら、首を傾げられるのは間違いない。

日本人は貧しくなっており、それは国際統計にも明確に反映されている。G7の中で、個人所得がこれほど少ない国は日本だけである。

多くの製造業が海外に移転したわけであるが、一方では移転する必要のない業種・会社も一杯あった。
ボクの知る限り、全部が中小企業だった。

しかしそういう会社でも、ナゼか海外移転をやったところが結構ある。
ボクは”移転”そのももが目的になっていた中小企業を幾つも知っているし、相談を受けた事もあった。みんな、「よくわからんが、移転をしないと乗り遅れる」、みたいなムードに押された会社だった。

正直そういう会社から相談を受けたときは、「正気か?」、と思った。「皆が出て行くので、ウチも」、だった。
これは正真正銘、本当の話である。

ボクは思う。日本という国は、実はアメリカのラストベルト(Rust Belt:)7州と同じ状況にあるのではないか、と。アメリカのラストベルトは7州で人口は合わせても5000万人、アメリカ全体の6分の1であるが、日本は1億2千万人全部だ。

日本はアメリカのように資源も強力な農業もない。何もないのである。
アメリカは世界一の原油産出国で、農業も世界トップクラスである事を、多くの日本人はあまり認識していないのではないか。

ボクがアメリカの現地法人に転勤した直後、ある取引先の社長さんが涙ながらに言っていたことを思い出す。

「日本で工場を閉鎖して日本人従業員の首を切り、家族を養えなくしておきながら、アメリカで使いにくいアメリカ人を雇って、なぜこんな事をやらねばならないのか。我々はアメリカの福祉団体ですか。」

従業員と日本をおもう、立派な社長さんだった。

日本は国民の稼ぎがなくなるのだから、国家の税収も減る。いずれ年金は今の半分以下、健康保険は5割負担とかそれ以上になるだろう。

貧しい国というのは治安も悪化するのは常識だ。貧しい国で、警察が頼りになるというのも聞いた事がない。

ラスト・カントリー・ジャパン(Rust Country Japan:錆び付いた国、日本)はどうなっていくのか、、、日本は今の南米のような国になる、、、これはボク流の考え方で、多分間違っているとは思うが、、、。