有り得ない再見(その1):2025−03ー08
人生とは"一度きりの出来事が刻む時間の流れ"とボクは思っている。そんな中のひとつに、様々な人との出会い、付き合い、別れ、再会がある。
人は一生のうちに、ほんの一瞬の接点も含め、一体何人の人と出会うのだろう。今までそんな事あまり気にしなかったが、最近考えるようになった。

これに関連してボクには不思議な経験がいくつもある。それは確率的に非常に低い、"偶然の再会・再見"だ。これまでに、そういう経験が21回、メモに残してある。
親しい友人達に、「こういう経験はあるか?」と尋ねたところ、答は殆どが「ない」、「よくわからない」だったので、ボクの21回というのは多い方かな?と思ったりする。

その中のひとつを記す。

2004年のクリスマス・バケーション。雪の降る中、ボクとカミさんはオハイオ州コロンバスからシカゴへ向かった。600km、6時間のドライブだ。

宿泊は、ダウンタウンから北西へ約50km離れたアーリントンハイツのホテル。
シカゴに来るとボクらはここを定宿にしていた。

ホテルからダウンタウンエリアまでは車で移動していたが、シカゴ周辺の片側5〜6車線のフリーウェイの運転は荒く、交通量も非常に多く120km/hほどのスピードで流れていた。
車間距離7〜8mでフリーウエーの出口から下道へ出る時などは、なかなかのスリルだった。

その時は夕食で一杯やりたいというのもあって、初めて電車でダウンタウンへ行ってみることにした。
乗ったのは、アーリントンハイツ駅からシカゴのど真ん中のユニオンステーションまでを結ぶ"メトラ(METRA)"
これは市内へ出る一般の観光客が利用することはほとんどない、主に通勤用の電車だった。

そのため、クリスマス・バケーション中の朝、ボクらの乗った列車の車内には誰の姿もなかった。
初めて乗るメトラ。外の雪景色を眺めていると、次の駅(マウントプロスペクト)で一人の中年の白人男性が乗り込んできた。
これで広い車内に、ボクらを含めて3人。

ボクはアメリカに来てから、自分の近くにいる人の風体をさっと観察する習慣が身についた。これは、アメリカで生活するうえで非常に重要な事だ。
人種・服装・持ち物・顔つき・目つきなどをさっと見て、注意すべき相手かどうかを瞬時に判断する。

もし「これはちょっと」と感じる相手なら、距離をとる、動きを警戒する、、、。こうした意識・行動は、アメリカでは大切であった。
「外見で人を判断してはいけない」という考え方があるが、アメリカでは自分の身を守るという観点から、これは必ずしも正しくないのであった。

広い車内にはボクら夫婦と、その白人男性しかいなかったので彼の姿は強く印象に残った。明るめの防寒着を着ており、こざっぱりとした雰囲気。やせ形で、身長は180cm弱くらい、髪は短めのグレーだった。

電車は約50分後、シカゴのど真ん中にある巨大なユニオンステーションに到着。このシーズンのシカゴの気温はマイナス5℃以下、街中の人影もまばらだった。

シカゴは広大な都市で面積は約600平方キロメートル(約25km四方)あるが、高層ビルが立ち並ぶダウンタウンエリアは10平方キロメートル(3km四方)ほどにまとまっている。ボクらはしばらく街を歩き、デパートに立ち寄ったりしてブラブラ歩いた。

そうしているうちにランチの時間になったので、適当なレストランに入った。大都会のレストランは、どこの国でもおしゃれなものが多いが、特にアメリカ大都市のレストランは重厚でもある。

ウェイトレスに注文を済ませ(内容はメモに残っていない)、ボクはふと右奥の窓際のテーブルを見た。

その瞬間、ボクは息を呑み、一瞬身体が強張った。
そこには、ユニオンステーションまで一緒の列車に乗っていた、あの白人男性が座り、一人でランチを食べていたのだ。

ボクらが乗った車両にはマウントプロスペクト駅から乗ってきたその白人男性と3人だけで、ボクとカミさんは2階席に座っており、1階席を見下ろせる位置にいた。
彼はちょうどボクの視界の中で座っていた。

人違いでは決してなかった。
ボクは興奮しながら、カミさんに小声でこれを話した。カミさんは、「へー、そう、私は覚えてない。」、くらいで大した反応はなかったのを記憶している。

ボクはその時は驚いたものの、ちょっとした出来事というレベルで記憶に留めたが、年月が経つにつれて"希な偶然"という気持ちが大きく増幅され、今に至っている。

この出来事、名古屋から東京まで新幹線に乗り、降りてから2時間ほどして、渋谷でたまたま入ったレストランに先ほどの新幹線で2〜3席ほど離れた場所に座っていた人物を見掛けた、そんな例えになると思う。

ではナゼ普通の白人男性をよく覚えていたか?その男性が乗車してきた時、ボクはいつものクセで彼の風体をさっと観察した。特に特徴のない、どこにもいそうな普通の白人男性、"その特徴のなさ"が、逆に印象に残ったのかも知れない。
入ったレストランの名前、通りなどはメモに残ってない。確かマーシャル・フィールズ(シカゴ発祥の高給デパート)近くの、イイ感じのレストランだった。

この男性との再見の確率は計算はできそうだ。しかしこの出来事は、"有り得ない"再見があった、という感激と思い出だけで十分、、、そう考えるようになってからは計算などは必要ない、という事でやっていない。