事実を積み上げて、推理をする:2025−07ー29
4月から行われていた、日米関税交渉の合意内容が発表された。この交渉は日米貿易交渉、日米戦略的貿易協議とも言われている。
最初のアメリカの提示条件は、「日本の自動車・自動車部品の対米輸出に25%の関税を課すると共に、日本は5500億ドル(80兆円)規模の米国投資を約束せよ」というものだった。
交渉結果の最終合意は"15%関税+投資枠80兆円”である。

赤沢経済再生担当大臣はこの間アメリカに8回出向き、商務長官(ハワード・ラトニック)、財務長官(スコット・ベッセント)と交渉を重ねた。
トランプ大統領とも会っている。トランプ大統領は交渉途中で「関税は35%にするぞ」、という恫喝を行っている。

協議合意内容はかなりわかりりくく、赤沢大臣の説明でもボクは理解できなかった。
マスコミも、合意内容のポイントをまとめて、きっちり説明できているところは少ない。

決定された関税15%は自動車と自動車部品に対してであり、他の輸出品目(農産物、鉄鋼・アルミ、電子機器・精密機械、半導体など)は含まれていない。

自動車と自動車部品の輸出額は現在年間約30兆円、これの関税は元々2.5%掛かっており、これが15%になった、つまり日本から見れば12.5%(4兆円)アップになった。

もし関税が25%になっていれば、実質22.5%(7兆円)の増加であったのが4兆円になった。単純に言うと日本は"7−4=3(兆円)"の関税増加を80兆円の投資で回避した、と言える。
これは小学校6年生レベルの算数であるが、これを解説しているマスコミが殆どないのはナゼか?
ボクは理解に苦しむ。

ボクが注目しているのは”80兆円の投資”である。ボクが思うに、ズバリこれは投資ではなくアメリカへの"現金供与(くれてやるお金)”である。
その理由は合意内容の次の4項目からだ。

・ 80兆円の投資によって得られた利益取り分は90%がアメリカ、10%が日本。
・ 80兆円を使うプロジェクト決定に日本は一切関与できない。
・ 80兆円を使うプロジェクト運営に日本は一切関与できない。
・ 80兆円のプロジェクトが失敗してもアメリカは日本に賠償責任はない。

投資とは一般的に投資する側(金を出す側)は投資先の決定、そしてそのプロジェクト運営には適切に関与し、利益は公平に分配である。公平に分配とは、出資比率に応じて行われることである。

他にも投資とは言えない要素があり、今回の80兆円に対して投資という言葉は全くの間違いで、ただの"資金供与"、"経済支援金"である。

更にもっと分かり易く表現すると日本からアメリカへの"現金プレゼント"、別な言い方ではアメリカによる"現金略奪"である。

日本はアメリカに対して、何か悪いことをしているのか?お金を出して謝らなくてはならない何かがあるのか?
ない。アメリカの製造業がここまで弱くなったのは、自らのせいで、決して他国のせいではない。
こういう説明解説がないのはナゼだろう。

ちょっと格好をつけて"経済協力金"、又は"経済安全保障投資"とかくらいの言葉は使えないのか?
80兆円は断じて投資ではない。

では80兆円を誰が出すのか、これは政府資金(いわゆる税金から)、公的金融機関(これも税金から)、民間企業、民間金融機関の4つであが、税金で40兆円が賄われるというのが一般的な見方である。

税金40兆円の規模は年間消費税15%分であるから、今から5年間だけ消費税を3%引き揚げて13%にする、とかの方法で辻褄を合わせるのか?
民間企業には現在数百兆円の内部留保金があるので、アメリカ政府も日本政府も大丈夫と踏んでいるようだ。

今回の80兆円はアメリカが”関税”というドスを日本に突きつけて、日本のポケットに手を突っ込んで、盗んでいったというのがボクの解釈である。

ここまで阿漕な事をやったアメリカ、ボクは考えた。交渉の”隠れた切り札”は何だったのかと。
日本が80兆円を出さざるを得ない、大きな切り札があったはずだ、と。

80年前に日本は大東亜戦争に敗れた。敗戦国は通常、戦勝国に"戦争賠償金"を払う。

これは国際法に抵触しない戦勝国の当然の行為であり、日本も日清戦争で清国に払わさせている。
しかし戦勝した連合国はこの権利を放棄した。

アメリカは、「日本から賠償金を取るよりも、日本の復興を優先させた」、と言っているが、これは日本は早く安定させた方がいいという、当時のアメリカの極東戦略からきている。

日本は占領地(フィリピン、インドネシア、ベトナムなど)には賠償金を長年にわたって払い、権利を放棄した中国には別の形で賠償金"相当"を払い、戦勝国でもない大韓民国にまで経済協力金という名で賠償をしている。
合計金額は現在価値で約40兆円である。

ボクは調べた。
もし連合国が戦後日本に戦争賠償を要求したならば、現在価値で約1000兆円程度になるという計算があった。
これを例えば50年間とか100年間、利息をつけて払っていれは、今の日本は到底有り得ない。

ドイツが100年前の、第一次世界大戦時の戦争賠償金を払い終わったのは、15年前の2010年である。

「今の日本があるのは、アメリカが戦争賠償金を徴収せず、また技術支援・食料支援をしたお陰である。日本よ、忘れてはいないだろうね。そのアメリカが貿易赤字で苦しんでいる。その代わりと言えば何だが、貸しをほんのちょっとだけ返せよ、たった80兆円ではないか。」、まあこんな感じだったのだろう。

これに反論は100%無理だ。全て事実であるし、今の日本は経済も防衛もアメリカによって成り立ってきた。
関税交渉でアメリカが、太平洋戦争後の戦争賠償と日本復興、つまり今の経済状況の根源について交渉の材料に使わないと80兆円を日本に飲ませることはできない、とボクは思う。

戦争に負けるとは、こういう事である。

交渉の内容は公文書化されていないという。しかし過去のアメリカとの交渉に於ける核の件、沖縄返還の件、日米構造協議などの例から、これはウソではないと誰が言えるのか。30年後、或いは50年後にはわかる事だが。
外交というのはこういうものである、とボクは思っている。