ニュースを聞いて思い出したこと(2021−07−19)
シンガポールの一人あたりの実質GDP(購買力平均)は世界で2位(95603ドル)、日本は28位(41637ドル)である。(世界の国の数とは196カ国)
国の経済的な豊かさを表すには名目GDP、国民の経済的な豊かさを表すには実質GDPを用いる、というのがボクの解釈だが間違っていないか?
これからいくとシンガポールの国民は日本などよりとてつもなく豊かで、7位のアメリカ(63051ドル)などより上という事になる。

日本は14位の台湾(54020ドル)、24位の韓国(44292ドル)より低い。
これらが何となく実感とズレるのは"平均"という数字のマジック、収入だけでは計れないその国の社会資本、相対的な物価水準など様々な要因があるからだ。

シンガポールは"明るい北朝鮮"とも言われる国で都市計画が徹底しており、中心部では基本的に一戸建ての住宅は建てることができず(そもそも土地の殆どが国有で個人が所有できない)庶民は長期ローンの国営高層アパートに住む。

このアパートに住んでいる人達であるが大半の部屋にエアコンはない。
あの赤道直下の国のアパートでエアコンがないとどうなるか、エアコンのないシンガポーリアンは夕方にシャワーを浴びてから寝るまで汗をかかないように静かに生活をする。

日中でもセカセカと動いたり無闇に走ったりはしない。歩くのもゆっくりとダラダラと歩く。これも余計な汗をかかないための生活の智恵みたいなものなのだ。とにかく暑い。
シンガポールの一般庶民のエアコン普及率と商業施設、オフィス、工場なとの普及率は全く違う。

またシンガポールの物価の高さは驚くばかりで夫婦共稼ぎは当たり前、老後資金の目標は1億円という人も珍しくない。GDPの上では世界第2位のシンガポールも一般庶民の生活を知るといろいろあるようだ。

ボクが少し住んでいたフィリピンはどうか。実質GDPは115位(8574ドル)、シンガポールの11分の1,日本の約5分の1だ。
国民の90%以上はエアコンのない生活をしている。ボクが第3の勤めでいた日系中小企業の現地法人で働いている120名の中で、自宅にエアコンがあるのは多分15%くらいではないか。

フィリピンの暑さは本当にスゴい。日本では30℃を越すと、「部屋はエアコンを入れて水分補給をこまめに行い熱中症に注意しましょう」、とかテレビでは曰っているが、これからいくとフィリピン人は1年中全員熱中症で動けなくなっていても不思議はない。
エアコンの普及率はいろんな数字があるが、一般的な庶民(これも定義が難しいが)の普及率はこんなものだ。

もうひとつ、日本人ではどうしても信じられない事のひとつにフィリピンでは飢えた人が多い、という事だ。
腹に入れる十分な食べものを手にできない国民が20%いる。国民の5人に1人はいつも腹が減っているが食べものがない、というのだ。

そして時々そういう状態になるという人が25%程度いる。つまり国民の2人に一人は食べものが十分でなく飢えているのだ。理由はズバリ、食べものを買うお金がないのだ。俄には信じがたいが、事実である。

人々は働こうとするが、働くところがない、又は働いても十分な収入が得られない。
マニラから80km程度離れた小さな町の雑貨屋(サリサリ・ストアーという)で店番をする18才とか20才の女の子の1日の駄賃が150ペソ(約300円)くらいというのはザラだ。

最低賃金は地方によって異なるが1日300〜400ペソ(600〜800円)くらいで、サリサリストアーとかの店員に最低賃金は適用されない。
最低賃金400ペソ(800円)で1ヶ月に25日働いて月収は1万ペソ(2万円)、フィリピンでの物価感覚は日本の1/5〜1/6くらいなので日本でいうと10〜12万円くらいの収入だ。
物価の中には電気代とかのように日本とあまり変わらないものもある。電気は他の物価に比べてとびきり高い。

とにかく12万円、これで親子4〜5人、時には7〜8人、これらの人の衣食住を賄うとなるとどういう生活になるか、容易に想像がつくというものだ。
病気になればどうなるか、病院に行けない人の方が圧倒的に多いのだ。公的健康保険制度はない。生活保護制度も勿論ない。

オリンピックで日本に来たウガンダの選手の一人が、「ウガンダには帰らない、日本で働く」、とかで行方知れずになった。このニュースを聞いて普通の日本人はその理由が言葉では分かっても本当に"理解できる"人は少ないんじゃないか。

ウガンダの国民1人当たりの実質GDPは世界161位(2585ドル)である。
つまりフィリピンの3分の1以下である。外国の生活はその国に行って実際に生活をして積極的にその国の幅広い人の観察をしないとなかなか見えてこない。
まずその前に"観る目"を養う必要があるが。

企業の駐在員でもパック旅行の長期バージョンで3年、5年暮らしてきた人をボクは何人も知っている。だからこういう人達は何を食べたとか、どこへ行ったとかそういう話しかしてくれない。
ボクの感覚からいくと実にもったいないと思う。

ボクはアメリカ、フィリピンに住んで随分いろいろと見聞をさせてもらった。普通のアメリカ人が会社に持って来る昼のお弁当の中味は何か、などというのはその国に住まないとなかなかわからないものだ。
弁当の中味を知るとそれを手がかりにいろんなものが見えてくる。

アメリカ生活も貴重な経験をしたが、フィリピンの経験はそれ以上に得難いものがあった。
その他にメキシコ、タイなどはそれなりに庶民の生活を見聞していると思うが深くはない。観光旅行的な漫談はいくらでもできるが。

それらはともかく、手に入る情報と数字からウガンダという国について推測に推測を重ねて想像してみた。
肥沃な土地、豊富な天然資源などはあるが、開発は不振だ。理由は延々と続く政権抗争と暴動・内乱による。

見えてくるのは数字のとおりの悲しいまでの最貧国のイメージのみである。実際に行った事がないから間違っているかも知れないが。

そのような国から来たオリンピック選手の中のひとりが「ウガンダの生活は苦しい、日本で働きたい」、という理由で姿をくらませたのは他に隠れた理由がないのであれば”絶望からの脱出”に近い気持からだと思う。
今の日本では既に”ピンと来ない言葉”になってしまった、文字どおり、”食えない”、のだと思う。

しかしこの行動はどういう犯罪になるのか。まず不法滞在入管法違反か、、、。