雑誌の表紙になったレトロ受信機(2021年3月23日)
私が短波受信機を初めて製作をしたのは小学生の6年生の時(リンクあり)で、ST管を3本使った0−V−1という再生(オートダイン)受信機でした。
それから3年後に私はアマチュア無線の免許をとってJA2IINを開局したのですが、この再生受信機がアマチュア無線の原点になっています。

社会人になってからはメーカー製の無線機などを使うようになりましたが、"三つ子の魂百まで"という諺のとおり、いつかはあの再生受信機をもう一度製作してみたいと思っており、機会を見つけてはコツコツと部品を集めていました。

そして数年前にとうとう思い出の再生受信機を製作する事ができました。
この受信機は計画中にアイデアと夢が膨らみ、回路も当時の0−V−1ではなく1−V−2になったので真空管の数も多く(メタル管など6本)、少々豪華版の再生受信機になってしまいました。

完成した受信機の感度は素晴らしく、記憶の中にある何十年も前の少年の頃に作った再生受信機とは全く違った性能を発揮してくれました。

当時は小学生であり技術などあるはずもなく、ただ雑誌を見て真似て作っただけですから性能を引き出すのは不可能であったのは当たり前です。

この思い出の受信機はQEXというアマチュア無線の雑誌に製作記事として掲載されました。

私の自作は誰かが作った送受信機などをそのままマネるのではなく、それを参考にして一から回路などを設計して、”自分オリジナルなものを作る”、というやり方です。

最近はよく"ものづくり"という言葉があちこちで使われていますが、私にとっての"ものづくり(無線機づくり)"は設計、部品の入手、製作、完成後の修理、改良の全てを自分でやり、それら全部を楽しむ事です。
お金さえあれば何でも手に入る今の世の中で、こういう事をやるのはある意味で贅沢な趣味だと思っています。

凝って作った6球式の再生検波受信機、10MHZ以下の周波数を受信するには高性能を発揮しますが高い周波数になると安定した受信に難が出るという再生受信機の特徴(弱み)はどうしても残ります。

それにこの受信機は力が入りすぎて製作したので、素朴で単純という再生受信のイメージから少し違った凝った感じのするものになってしまいました。

再生受信機の原型は90年以上前にアメリカで作られた、現代の視点で見ると非常に単純な受信機です。
現時点での再生受信機の製作とは、90年前の技術を現代の部品で再現するという事でもあるので、イメージは現代風であってはいけないのです。

精魂込めて作った再生検波受信機ではありましたが、この受信機は何となく"よそよそしく"、そして"すまし顔"で、自分で作っておいて言うのも変ですが"オレの分身"という感じがしないのです。

そこで、、、前の製作で得たノウハウを基に改良点も織り込んで、もうちょっと昔風な感じのする(?)再生受信機を再度作ってみる事にしたのでした。

前の受信機を1号機、今度製作した受信機を2号機とした場合、2号機の考慮点は次のとおりです。

・ 外観はシンプルでよそ行きではなく普段着の雰囲気、そして小学校6年生で作ったときのイメージを再現する。
・ 小型に作る: 狭いマンション生活では何でも"小型"というのは必須条件です。
・ 再生回路は1号機を踏襲: 1号機の再生回路は電気的な完成度が高く、改良の必要性は感じません。
・ クリスタル制御の周波数変換機能を組み込む: 高い周波数では不安定、という弱みを解決する。

真空管は1号機ではなるべく古いモノという事で1935年頃に開発されたメタル管(GTベース)を使用しましたが、2号機では小型化のためにそれよりうんと新しいMT管を使用しました。
自作無線機の成功・失敗は部品のレイアウトでほぼ決まります。
それとシャーシー・パネルなどの加工、これを丁寧にやらないと愛しい無線機にはなりません。

自作のラジオとか無線機でパネルもなしでシャーシー上に部品を並べて配線をしただけ、という作り方のものを多く見かけますが、これは畳の上に寝っ転がってせんべい食べながらテレビを見ているオ○サンに相当します。
(○はバ、又はジどちらか好きな方を入れる)

言いたいのは自作無線機でも一応の品性を保ち、そしてそれなりの容姿に仕上げなくてはならない、という事です。

配線もコツがあります。自作無線機で多いのが配線が直線的にやられている事です。
シャーシーをひっくり返してシャーシー内が網の目になっている配線はNGです。
これは見た目の問題ではなく、不要な干渉を防ぐのが第一目的です。

完成した2号機は殆ど調整を必要としませんでした。これは再生受信機としては驚きの結果で、十分な回路の吟味と部品レイアウトの検討、基本に忠実な配線・半田付けによる結果と自負しています。

完成した2号機の性能は予想を上回るもので、21MHZとか28MHZという高い周波数の受信が非常に容易になりました。

私はCW(電信)で国内外と交信をするのが好きで、1号機、2号機ともCWに対する受信能力は大したものです。20万円以上する無線機と比較しても感度は同等に近いと思います。

また私はRTI(台湾国際放送)とかベトナムの声とかの外国からの日本語放送、たまにちょっと頑張ってBBCの東南アジア向け英語放送などを聞いています。短波放送を聞くにもこのレトロな感じの受信機はぴったりです。

こういうちょっと変わった再生受信機を作った事をCQ出版社編集部のT編集部員に連絡をしたところ製作記事を書きませんかという話になり、2021年4月号のCQハムラジオ誌に製作記事を書く事になったのでした。

4ページ分の記事と回路図・写真をメールで送った数日後にT氏から、「編集長がこの再生受信機を4月号の表紙に使いたいと言っているのですが、受信機をお借りできますか?」、という連絡がありました。

「エー、これがCQ誌の表紙に!」、という事でびっくりしたのですが、「まあ田舎娘ではあるが、そこそこ自作無線機美人でもあるし、、、」、とかいう親のひいき目もあり、喜んでご提案を受けさせて頂いたのでした。

受信機をT編集部員宛に送って10日弱後、写真撮影が終わって送り返されてきた受信機と共に撮影された何枚かの写真が同封されていました。

写真はCQ出版社の無線・電子関係の写真、それに電気製品とかのカタログ用の写真などを撮影するプロ・カメラマンの方による撮影で、見事なものでした。

4月号の発売は3月19日、さっそく本屋に行ってみると雑誌コーナーの棚に私の再生受信機の写真を表紙にしたCQハムラジオ誌が鎮座していました。

パネルの傷とかもちゃんと写っており、「これも自作品らしくていいじゃないか。」、などと再度親のひいき目になっている私でした。

何よりも嬉しいのは本来なら私の部屋の中で一生を終わる自作受信機が3万人近くの人の目に触れる機会を得た事です。雑誌へ製作記事を書くのも記念になる事ですが、写真の表紙への採用というのは格別です。

この受信機、思ったよりうまく作動するし、保守用の部品も確保してあります。小型でじゃまにもなりませんので愛機として机の上に置いてずっと使っていくつもりです。