50年振りの現役復帰(2021年5月28日)
ボク(本コラムも”私”ではなく、”ボク”を使うことにした))がアマチュア無線局を開局した昭和40年頃のアマチュア無線大国は今と同じアメリカだった。アメリカのハム人口は25万人、日本は4万人で70%が中高生だった。これは当時の局名録などを見ると一目瞭然だ。

日本の殆どの局はHFと50MHZの公称10WのAMで、技術のある成人のハムとかがSSB、144MHZのAM(FMではない)をやっており、自作が主流の時代だった。語弊はあるが当時のハムは今のような大人の「道楽」ではなく、青少年の科学的興味をかき立てる「健全な趣味」だったと言える。

ボクが21MHZのAMでオーバーシーQSOを始めた頃はアメリカもAMを使っている局が結構おり、特に28MHZはAMがメインだった。その後2〜3年であっという間にアメリカからAM局はなくなったが。

彼等とQSOすると大体がオジさん・年配者で、ボクらのような中高生というのは殆どいなかった。
あとでわかった事だが、実はアメリカにも中高生ハムは一杯いてみんな主にCWに出ていたのだった。

理由は彼等の免許制度によるところが大きかったのだ。この辺の事情は別途本コラムで説明をする。

21MHZとか28MHZでQSOするアメリカの局はみんな立派な送受信機を使っていた。
ハリクラフターズ、ハマーランド、コリンズの受信機、送信機はヒースキット、EFジョンソンなんかがAMには多かった。とにかくボクは夜の夢にも出てくるほど羨ましかったね。

その頃の日本の中高生ハムが使っていた送受信機は自作とキットの組立が半々くらいだった。
一部の金持ちドラ息子ハムは完成品とか輸入品を使っていたかも知れないが、ボクらとは縁のない連中だった。
とにかく雑誌で見るアメリカの送受信機は素晴らしいものに見えたね。

その後30年くらいした頃の45才から会社の定年になるまでの60才まで、ボクはアメリカ・オハイオ州に住んだのだが、ここで大きな発見をした。
それはボクがハムを始めた頃から、日本の多くのメーカーは受信機、測定器、パーツなどをアメリカに大量に輸出していた事であった。

ボクはオハイオには最初の1年間だけ単身赴任だった。赴任後2〜3週間後には既に州内のHAMーFESTに顔を出していた。

ボクはその時行ったCLEAVELANDのHAM−FESTで何とTRIOの9R59を見つけたのだ。これにはびっくりしたね。最初は日本に行った誰かが日本で買ってアメリカに持って帰って来たのだと思った。
ま、日本の戦争花嫁みたいなもんかな?違うか、、、。

しかしその9R59のパネルをよく見るとTRIOではない。”LAFAYETTE HE30”となっている。
ボクはためらわずにその9R59、もとい、HE30を買った。確か40ドルくらいだったと記憶する。

日本レストランでドンチャン騒ぎをするとオハイオでも80ドルくらいは簡単にいっちゃうのに9R59が40ドルとは、、、ボクは少し興奮したね。

アメリカは家が広いのでモノを捨てることなくストックできる。ボクはオハイオで家を買ったが、地下室は40畳くらいあった。
それに南部の一部の州の一部を除いて空気が乾燥しているのでモノを長期保管しても痛みが少なく、何十年経ってもホコリは被っているが状態は非常にいい、というのが一般的だ。

当時日本製の受信機・部品などはB級品扱いだったが1ドル360円の時代で、HE30は90ドル、アメリカ製の同じレベルの入門用受信機と比べると2/3〜1/2くらいの値段だった。

9R59はボクの開局当時の標準型受信機と言ってもよく、友人も使っており雑誌にも同じような構成の受信機製作記事がたくさん載っていたし、アメリカで会えるなんてとにかく懐かしかった。
ボクが15年のアメリカ生活を終えて日本に帰国する時はHE30が10台、自宅の地下室に転がっていた。

HE30のコレクションを始めてしばらく経った頃、古いQSTの中に不思議なスタイルの受信機を発見した。パネルのカラーデザインはJR60と同じで、ツマミ等のレイアウトは9R59に近かった。

これはTRIOがアメリカ輸出専用モデルとして作ったソリッドステート受信機であった。ボクはこの受信機が欲しくなりE-BAYで探した。80ドルだったか90ドルで簡単に見つかった。

このちょっと変わった受信器は”ALLIED”という販売会社が”A2515A”という名前で1967〜1971年の間に売っていた。これもTRIOのOEMであった。
当時の値段は100ドル、もし日本で売ったならALLIEDの利益と輸送コストを除いて65〜70ドル、25000円くらいではないかと想像する。

この受信器は日本に帰るまでに3台を入手、1台を修理部品取り用にバラして2台を整備した。

A2515Aは2個のFET、10個のTR、12庫のダイオードで作られたいわゆる高1中2の受信機である。
本格的なプロダクト検波、受信周波数はBC帯〜30MHZ+(150KHZ〜400KHZ)の長波が受かるようになっている。

当時はまだヨーロッパでは長波の放送があり、その他長波は航空機、船舶の航法支援用のビーコンの送信を行っていた。
またIF段には簡易型のメカフィル(東光製MFH40K?)が入っており9R59Dと同じである。

ソリッドステート化してあるにもかかわらず9R59と同じ大きさのシャーシーを使っており、内部は非常にゆったりとしており、メンテナンスも非常にやりやすい。

私はこの受信機をアメリカから持って来て10年間、使っていない一軒家の自宅で保管(と言うか放置)していたのだが、先日これを引っ張り出して電源を入れて再調整をやってみた。

見事に作動してくれた。
日本で1960年代後半に作られ、アメリカで売られ(多分オハイオで)、そして2010年に日本に持って帰られて、10年後に再び電源を投入された。実に50年振りの現役復帰である。

自慢ではないがボクはハム用の受信機(全て真空管)はかなりの数を自作した経験がある。オートダインから始まって高2中3の高性能なタイプまで、またそれ以上に聞き比べの経験も持つ。
A2515Aは高1中2なので真空管製の高1中2(9R59レベル)との比較・評価をボクの経験からやってみた。

先ず言えるのはA2515Aは安定度が断トツにいい。真空管という発熱体がなく局発のコイル、そこに入っているダストコアも小型であるからと思われる。21MHZのSSBも割と安定して受かる。真空管の高1中2では軍用機以外こうはいかない。

感度もハイバンドまで非常にいい。RF増幅・混合がFETであること、そしてVC・コイルパック・RF基盤のレイアウトに無理がなく、高周波ロスが少ないせいだと思われる。

9R59などで経験する、ハイバンドになるとガクッと感度が落ちる、あの段差はあまり感じない。28MHZまで何とか実用になる。

選択度はー6dbで3.6KHZだけしかカタログには書いてない。使用されているメカフィルは東光のMFH40Kと思われるので、ー60dbで10KHZくらいだろう。SSB,AMには十分な選択度である。

SSBはダイオード2個による平衡検波なので実にきれいにスムーズに受かる

ところでA2515Aは音質があまりよくない。
表現が難しいのだが1960年頃のトランジスタラジオ独特の音質と思えばよい。
これは真空管式の高1中2にはかなわない。この音質の悪さはAF回路中のCの劣化かもしれない。ま、通信機らしい音質だと言えば言えなくもない音でもある。

A2515Aは今となっては少し大きめの受信機であるが、ダイアルをクルクル回して短波帯を散歩をするようにワッチをするにはちょうどよい。

ところで本機のパネル印刷はA2515でA2515Aではない。しかしA2515のIFは3段増幅であるが、本機は2段であり間違いなくA2515Aである。パネル印刷と中味が違う理由はよくわからない。

当時のトリオがこういう優れた受信機をアメリカに輸出していた事を知る人は少ない。
使い方によっては現在でも十分実用になる受信機である。