昔を蘇らせる受信機(2021年11月11日)
ボクはアマチュア無線が趣味のひとつだが誰かと無線で交信をするというのは割と少ない。また交信をする時はマイクを握って、というよりキー(電鍵)を叩く方が多い。

ボクは交信より真空管を使った送信機、受信機、たまにオーディオアンプなどを作る方がメインになっている。今はウサギ小屋(マンション)生活になったので部屋中に工具や部品を拡げて半田ごてを振り回すというのはやらないが、それでも時々6畳の部屋が足の踏み場もないくらいになる時がある。

先日、ずっと前に作った真空管式受信機の調子が悪くなっていたのを思い出し、これを引っ張り出して具合を見てみた。
受信機は第2次世界大戦時にアメリカがB17、B29とかの爆撃機などに搭載していた長波・中波・短波用のBC348Qという小型受信機の主要部品を流用して製作したものだ。

受信機の外観を見て無線仲間は「レストアしたのですよね」と言うがボクは「レストアではないよ、ボクが新作した受信機だよ。」と答える。

レストアとはこの受信機が作られた時と同じ"元の状態に戻すこと"で、確かにパネルもダイアルもオリジナルと殆ど変わらないのでそう言われても仕方がない。

しかしボクのBC348Qの中味はオリジナルとは別物に変身している。要するにBC348Qの主要部品を流用して作った、BC348Qの格好をした自作受信だ。少々ややこしい。
外観は再塗装、その他全て分解して再利用部品以外は全部捨てた。銘板も特注で作ってもらった。

オリジナルの構成は8球の高2中3であり、シャーシーとかを流用するので基本構成は同じく高2中3となった。しかし性能を確実に引き出すために様々な付属回路を付加して12球にしてあり、配線は結構混雑している。

押し入れから引っ張り出した受信機に電源を入れ各部の電圧などを測定したが全部正常。真空管もピンピンしている。問題はバンド切り替えSWにあり、しばらく使っていなかったので接触不良になっていた。
SWに接点洗浄剤を吹き付け、何度か回転をさせたところ正常に受信できるようになった。深刻なトラブルではなく一安心である。

オリジナルのBC348Qは1940年頃に製造され、既に80年以上が経過、ボクよりうんと年上だ。

こういうタイプの受信機はバリコン、高周波コイル群、IFT、同調機構で基本性能が決まる。
部品は全て良質であり、総合的に真空管式シングルスーパーとしてはハイレベルの感度、安定度、選択度の受信機に仕上がっている。

難点は周波数の読み取り精度が低い点だ。ダイアルの目盛りは3.5MHZで25KHZ単位、7MHZで50KHZ単位である。

これについては周波数というのは100KHZ単位くらいをカンで大体この辺だろう、、、で育ってきた自作派ハムのボクにとっては大きな問題ではない。

送信機などの製作では原発振3.5MHZの逓倍の取り違えをやって7MHZでCQを出しているつもりが10.5MHZで送信しており、どうして応答がないのか悩んだ事もある、というのは普通に経験した世代だ。

それはともかくBC348のIFの周波数は915KHZと高く、しかもRF増幅が2段なので高い周波数でもイメージ混信は全く感じない。
IF周波数が高いので選択度を稼ぐため対策としてハーフ・ラティスのクリスタルフィルターを自作して入れてある。
CW受信時は更にシングルクリスタルフィルターが追加で使用できるので快適だ。

久しぶりにこの受信機でアマチュアバンドを受信してみた。
昼の7、14MHZ,夜の1.8、3.5MHZのSSB,CWが小気味よく受信できる。
14MHZとかのハイバンドも高2中3という構成のせいもあって感度は非常にいい。

現代のデジタル処理をした受信機に比べると、"信号を拾い上げている"、という感じの聞こえ方だ。
シングルスーパーなのに高い周波数でも安定度がいい事に驚く。
理由はBC342程ではないがやはりコイルの品質がアマチュア用とは全然違うからだろう。

かつて自作受信機ではトリオのコイルを使うのが定番だったが、周波数変動には泣かされたのを思い出した。
注意深く作っても7MHZ付近で安定化するまでに電源を投入してから1時間以上掛かるのが普通だった。

ダイアルは200:1という減速比なのでSSB・CWの同調も楽だ。航空機搭載受信機であり、上空でクリティカルな同調操作は無理なのでこうなっているのだろう。
同時期の日本の航空機搭載受信機も同じように作ってある。

BC348Qは200KHZ〜500KHZの長波が受信できるので久しぶりに聴いてみた。昔は何局かのNDBが入感し、特に373KHZの館山NDBは出力も大きく(確か2KW)よく聞こえたが既に閉局したのか聞こえない。
380KHZのAK(明野)が58で入った。

放送バンドは6MHZ,9MHZ,11MHZ,15MHZ,17MHZ、全部実によく聞こえる。
低い周波数帯は中国語、韓国語放送の天下となっておりあまり聞く気がしないが、高い周波数帯はエキゾチックな放送を聞くことができる。

放送はTS850とかR5000で聞くのとは全く違う雰囲気で聞こえる。どう違うのか言葉で表すのは難しいが、BC348Qではそれぞれの放送局が持つ独自の特徴がくっきりとわかるのだ。

なぜこういう聞こえ方をするのか理由を電気的に説明せよ、と言われるとこれも難しいが多分AGCの特性と検波回路の違いからだろう。
また意外と大事なのが、このテの受信機でもAF段は注意深く作っておく事だ。

R5000などで聞くとみんな同じようにフラットに聞こえてしまう。信号の強弱もボクのBC348Qでは強い局は強く、弱い局は弱く、それぞれがメリハリを付けて聞こえる。そしてBC348Qは何よりも受信音がソフトだ。

BC348Qで短波を受信をしてるとずっとずっと昔の、今から55年以上前に短波受信機を作って夢中で聞いた時の雰囲気なのだ。
ダイアルを静かに回すと遥か昔が蘇るような気がする。実に不思議である。

BC348Qの短波の受信範囲は1.5MHZ〜18MHZである。太平洋上を飛行する民間機の洋上管制の航空無線もよく聞こえる。

日本人管制官のあのコテコテのジャパニーズ・イングリッシュ(こういう英語をアメリカでは"ジャングリッシュ"と言っていた)で外国エアーラインパイロットにちゃんと通じているのはいつ聞いても感心する。

遥か昔の中学生の頃短波受信機を作り、様々な国の放送が聞けるようになるとその国に行ったような気がしたものだ。
世界と自分を結んでくれるのが短波受信機であった。
この音楽はメキシコの放送局からだ、、、メキシコってどんな国だろう、いつかに行ってみたいな〜、、、。

ボクの外国に対する憧れを育んでくれたのは短波受信だったかも知れない。

BC348Qという80年前の古い受信機の部品を使って自作した受信機を引っ張り出し、久しぶりに電源を入れてみた。
深夜に11MHZ帯のヨーロッパ辺りからの放送をBGMにウイスキーを舐めながら本を読む、、、ボクにとって最高の一時でもある。