憧れの受信機(1)トリオJR300:(2022年03月14日)
日本でアマチュア無線が正式に許可された昭和27(1952)年から昭和45(1970)年頃までの20年弱の間、標準的アマチュア用受信機は高1中2(高周波増幅1段中間周波増幅2段)のシングルスーパーであった。

これ以降は電話通信の電波形式がAMからSSBに変化して送受信機の自作が激減(必要な自作技術が高度化したため)、アマチュア無線家と言ってもこの頃を境に、様々な面で大きな”ジェネレーションギャップ”がある。

アマチュア無線は”短波・電信・自作”の中の2つ以上をある程度やった経験がないと、広がりのない、そして底の浅い趣味になってしまう。

最近は無線機にPCを接続すると実質的に
PCが勝手に通信をやって、しかもあっという間に終わってしまう、、、というモードがあるが、「さて、何が面白いのだろうか?」、と思ってしまう。

昭和34(1959)年に電信電話級の資格が設けられて局数が増え、ボクが開局した昭和40(1965)年頃のアマチュア局の75%は中高校生で、殆どの受信機は自作、又はキット組み立ての高1中2を使っていた。

高1中2タイプは注意深く作れば実用性はそれなりにあったものの、10MHZ以上ではイメージ混信が目立ち、また周波数安定度は我々が普通に入手できる部品を使う限りでは限界があった。高1中2クラスでも良質の部品が使われると全く別物になってしまうのは、軍用受信機を使うとよくわかる。

従ってアマチュアの場合、例えば21MHZなどの受信では高1中2が安定に作動する3MHZとか4MHZに周波数変換をする、クリスタル・コントロール・コンバーター(クリコン)を付加して使うのが一般的だった。

また普通の高1中2が持つLC同調のIFT3本では、当時ポピュラーであった7MHZのCW/AMには選択度が足りなかった。
そこで雑誌には高1中2の選択度を高めるための改造、付加装置の記事が毎号のように掲載されていた。

このように高1中2の実用性については感度はともかく、十分な安定度は7MHZまで、選択度は特にローバンドで不足しており、多くのアマチュアは性能の限界を感じつつ使っていたのである。

但しボクのローカル局のJA2FGT・坂さんは何の改造・付加装置もない9R59を使い、14MHZ、21MHZのCWでオーバシー局とバリバリQSOをやっていた。

つまり高1中2でも受信テクニックさえ磨けば、ハイバンドでも使えたと、いう証明であった。

ボクの開局時の受信機は”高1中3”で21MHZ等はクリコンを使用、選択度向上対策はQマルチ、これで3.5〜28MHZのCW/AMで十分に使用できた。この構成は現在でも実用可能だと思う。

ボクが開局をする2年前の昭和38(1963)年に八重洲無線からFR100(後にFR100B)というコリンズタイプの高級受信機が、少し遅れてスターからSR600というトリプルスーパー、そしてトリオからもコリンズタイプのJR300という受信機が発売された。

いずれも技術志向の人達が始めていたSSBの受信を主な目的とし、値段は6〜7万円、当時の大卒の初任給が約2万円くらいなので今で言えば60〜70万円相当になる値段であった。

それまでこういうタイプの受信機はアメリカ製しかなく、ボクら中高生ハムにとっては高嶺の花、というよりも別世界の代物であった。
それが非常に高価ではあったが日本の3つのメーカーから殆ど同時期に発売されたのだった。

雑誌にはこれら3台の解説・比較記事などが次々と出された。ボクは毎日、それこそ毎日これらの記事を読んでため息をついていた。

様々な大OMによる評価は一番が八重洲FR100B、次いでスターSR600、そしてトリオJR300という順番であった。

FR100BはCW・AM・SSB用の3種類のフィルターの切り替えがあったのと、周波数の読み取り精度が良かったのが高評価の理由と書かれていたのが印象に残る。

しかしボクは最下位であるトリオJR300がナゼか気に入っていた。デザインがスマートで回路も大変わかりやすかった。
FR100Bの回路図は八重洲独特の描き方でボクは好きではなかったし、SR600はトリプルスーパーという事で周波数変換が3つもあり、何となくSNが悪そうな感じがしたのである。

これらの受信機は当時の普通の中高生に買える訳がなく、ボクはいつか手に入れてみたいと夢を描くだけだった。FR100Bは15年経った昭和53(1978)年頃に念願叶って手に入れた。

性能、機能は申し分なく使いやすい受信機
と感じたが、何となくアマチュアの自作受信機のイメージが残るデザインで、ボクは好きになれなかった。

SR600はボクが35才くらいの頃、知人のものを借りて使ってみたがまともに作動せず、かなりの部品と真空管の交換などをしてやっと動いた。

SR600のQ5er方式でのIF特性はやはり裾が広く、使ってみて一目瞭然(一聞瞭然?)であった。

その後ハリクラフターの同形式の受信機(SX117)を入手、使った感じは記憶に残るSR600と同じだったのでSR600の完成度は高かったのだと思う。

トリオのJR300は発売されてから約40年後の2000年頃にオハイオ州のあるHAMーFESTで手に入れた。一見使い物にならないと思うくらいに汚れたボロボロ状態であったものの、凹みとかのダメージがなく投げ売り価格だったので買ったのであるが、クリーニングしたら見違えるようにキレイになった。

このJR300はメカフィルが減衰器なっているという不具合があった。当時の日本製メカフィルは素子を包んでいるウレタンが経時変化で溶け、ほぼ100%同じような症状を起こしていたのであった。

メカフィルを分解して溶けたウレタンをアルコールなどで洗い落として新しいウレタンで振動素子を包み、再度組み立てると正常になるらしいがボクは新しいメカフィル(コリンズ製)に交換した。

調整を念入りにやった結果、3.5MHZから28MHZまで高感度で見事に受信できるようになった。聞こえ方はトリオ(ケンウッド)独特のソフトな耳障りのいい音で予想どおりであった。

トリオ(ケンウッド)はオーディオメーカーでもあり、JR300は明らかにオーディオ機器のデザイナーが設計した外観で、同時期のFR100B,SR600より洗練されており、このデザインが気に入っている。

唯一の欠点はIFフィルタの切り替え機能がなく、SSB用の2.4KHZのメカフィルだけで、AMには狭すぎてCWには広すぎるという点だ。

ボクの手に入れたJR300は正確にはLAFAYETTE(ラファイエット)HA350という型式で、当時トリオはアメリカではラファイエットのOEMメーカーと言う立場で販売をしていた。トリオ・ケンウッドのブランド名で販売できるようになったのは、昭和49(1974)年頃からではないか。

このJR300,作られてから半世紀以上が経つ古い製品であるが使ってある部品も割と良質で、現在でも立派な実戦SSB受信機である、、とボクは思っている。